合理的に考えても苦しいときに必要な「心育て」
合理的に考えれば、冷静でいられるはずなのに、なぜか、悲しみやイライラがおさまらない。
頭では分かっているのに、気持ちがついてこない。
そんな状態に、戸惑ったことはありませんか。
実はそれ、あなたの考え方が間違っているからでも、努力が足りないからでもありません。
「合理的に考える」ことが効かない状態に、心がなっているだけなのです。
私はかつて、「自分を否定する考えが偏っている」と気づき、考えを修正しようと懸命に取り組んでいました。
ところが、どれだけ理屈を整えても、気持ちはうわすべりするばかり。
かえって、「できない自分」を責め、落ち込むことをくり返していたのです。
しかし、自己理解を深め、自分の心を育てる視点を取り入れたことで、変化が起こりました。
合理的な考えを浮かべると、感情がすっと落ち着くようになったのです。
この記事では、私自身の体験を交えながら、合理的に考えても苦しいときに必要な「心育て」という視点についてお伝えします。
合理的な考えが効かなかった理由

私の頭の中には、いつもこんな考えが浮かんでいました。
「私には能力がない」
気づけば、自分を責め、苦しい気持ちを抱える日々。
何とか変わりたい一心で、アンガーマネジメントやアサーショントレーニングの講座を受講しました。
これらに共通していたのは、
「非合理的な考えを、合理的な考えに修正する」というアプローチです。
頭に浮かぶ自動思考を書き出し、それを別の見方に置き換える。
これは、「認知療法」や「論理療法」として知られる方法で、多くの人に効果があります。
私たちは、出来事そのものではなく、それをどう解釈したかによって感情が生まれます。
だから、合理的な考えをくり返し思い浮かべれば、ネガティブな感情は弱まる——。
理屈は理解できました。
けれど、私の場合は、うまくいかなかったのです。
「私には能力がない」と思ったとき、
「発揮できていないだけで、能力はある」と言い聞かせても、
「あったとしても、役に立たない」
「やっぱり、使えない人間だ」
そんな声が、さらに勢いを増して返ってくるばかりでした。
※考え方を修正する方法(認知療法)について、詳しくはこちら。
非合理的な考えが強かった背景にあるもの

なぜ、これほどまでに非合理的な考えが強力だったのか。
振り返ると、その背景には、幼少期の体験がありました。
私は小さいころから、思い通りにならないことがあると、母に責められ続けてきたのです。
出来の良い弟と比べられ、「あなたはダメだ」と言われる経験を重ねるばかりでした。
母なりに、私を立派に育てたいという思いがあったのだと思います。
誰かを悪者にしたいわけではありません。
ただ、その言葉は、幼い私の心に深くしみ込み、「私には能力がない」という考えとして根づいていきました。
この考えは、当時の私にとって、心を守るための大切な意味を持っていました。
「自分がダメだから怒られる」と思えば、大好きな母を責めずに済んだからです。
こうして作られた非合理的な考えは、命を守るのと同じくらい重要な役割を果たしていました。
簡単に手放せるはずがありません。
「子どもの部分」と「大人の部分」

あるとき、ふとしたきっかけで、合理的な言葉が心に響く体験をしました。
その変化をきっかけに、私は一つの結論にたどり着きます。
心の中で、「子どもの部分」が強く活性化しているとき、
冷静な「大人の部分」は、ほとんど力を発揮できない。
私たちの心の中には、年齢に関係なく、感情的な「子どもの部分」が存在します。
頭では分かっていても、感情が抑えられないのは、この部分が前面に出ている状態だからです。
特に、過去に心が傷つく体験をした場合。
その年齢のまま、成長が止まった子どもの部分が残りやすくなります。
その子どもは、つらい気持ちを抱えながらも、誰にも助けてもらえず、一人で耐えてきました。
だからこそ、自分を守るために非合理的な考えを握りしめているのです。
理屈が通じないのは、自然なこと
大泣きしている子どもに、理屈を並べても届かないのと同じように。
心の子ども部分が苦しんでいるとき、合理的な説明は、逆効果になることがあります。
まず必要なのは、
「つらかったね」「嫌な思いをしたね」と気持ちに寄り添うこと。
イメージの中で、子どもの部分を抱きしめたり、
背中をなでたりするだけでも構いません。
大人の部分が、日頃から、子どもの様子を理解し、安心を届けられるようになると。
はじめて合理的な考えが、心に届くようになります。

幼いころには役立った考えも、大人になった今の現実では、足かせになることがあります。
合理的に考えても苦しいとき、必要なのは、
考えを無理に変えることではありません。
自分の心を、子育てをするように、育て直していくこと。
それが、「心育て」です。
過去につらい体験があったとしても、
心は、今からでも育てていくことができます。
ただ、一人で取り組むのは、簡単ではありません。
私自身も、ハコミセラピーを用いたグループワークや個別セッションを通して、少しずつ自己理解を深めてきました。
現在、私は自己理解をサポートする個別セッションを提供しています。
合理的に考えても苦しさが消えない方にこそ、心育ての視点を体験していただけたらと思っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
※ハコミセラピーについて、詳しくはこちら。





















